2015年5月19日火曜日

対談。安田寿之 × 新川忠(7)


C H A P T E R 7 中間のフィールド。


安田 新川さん、どんな映画好きなんですか?

新川 映画ですか?
   いや、もう、なんでも。
   ・・・でも、映画も最近、
   全然観なくなっちゃったんですけど(笑)。

安田 家でも、映画館でも?

新川 そうですねぇ。
   20代のころとかはほんと、
   狂ったように観てましたけど(笑)。
   それこそ昔の小難しそうなフランス映画とか、
   いわゆるシネフィルと呼ばれる人たちが
   観そうなやつを、
   好んで観てた時期もあるんですけど、
   最近はそういうの、
   まったく観たいと思わなくなりました。

安田 うんうん。

新川 タルコフスキーとかアンゲロプロスとか・・・
   「これはすごい映画だ」
   なんつってみたりして(笑)。
   よくわかりもしないのに(笑)。
   最近はほんと、
   単純に楽しめるような娯楽大作とか、
   そういう映画のほうが良かったりしますね。
   非常にわかりやすいラブストーリーとか。

安田 そうですねぇ。
   ぼくも好みはけっこう変わってきましたねぇ。
   やっぱり1stアルバム作ってるときとかまでは、
   キューブリックが神様だと思ってたんで。

新川 ぼくも好きですよ。

安田 ずーっと、ああいう映画に似合うような
   作品を作りたいと思ってて・・・
   まぁ、それでちょっとコンセプチュアルだった
   ってのもあるんですけど。

新川 あー、なるほど。

安田 今は、なんか、カサヴェテスみたいな・・・

新川 はいはい。

安田 やりたいことを
   そのままやってるみたいな感じが
   好きになってきましたかねぇ。
   ・・・うーん、でも、どうかなぁ?
   そんなシンガーソングライター的な映画が
   とくに好きってわけでもなくて・・・

新川 やっぱりなんでも観ます?

安田 そうですね。
   最近は、観る時間がちょっと、
   決まってきちゃってて。
   日曜の深夜に
   iTunesで借りて観ることが多いんですけど。
   やっぱり子供が寝てから・・・

新川 あー、そうでしょうね。

安田 ・・・なんか平日の夜だと、
   ちょっと罪悪感があるんですよね(笑)。

新川 (笑)

安田 「日曜の夜だったらいいかな?」
   みたいな(笑)。

新川 1週間がんばった自分にご褒美(笑)?

安田 そうそう。
   しかもパソコンでヘッドホンで観る。
   ひとりで。
   奥さんも、もう寝ちゃうんで・・・

新川 こっからおれの時間。

安田 そう(笑)。
   お酒飲みながら。
   だから、
   あんまり考えたりしなきゃいけないのは
   しんどくて・・・
   なんか、ぼーっと観れるほうが良くて。

新川 そうなんですよ。
   同じです。

安田 一番好きな監督は誰なんですか?

新川 いや、いっぱいいるんですけど・・・

安田 一番好きな作品でも・・・

新川 あ、でも、さっき
   タルコフスキーの名前を出しましたけど、
   実は好きですね(笑)。

安田 はいはい。

新川 説明がつかないんですけど・・・
   なぜか好きですね。
   あの、難解な作品って、ぼく苦手で。
   ゴダールがまず苦手なんですよ。
   ミュージシャンって、けっこうそのへん、
   ゴダールとかトリュフォーが好きな人って
   多いですけど。

安田 そうですね。
   ぼくはトリュフォーがすごい好きですね。
   ゴダールは、そうですね、あんまり・・・
   好きな作品もありますけど。
   「アルファヴィル」とかすごい好きですけど。

新川 あ、あれ好きですか?
   ぼくダメで(笑)。

安田 あ、そうですか?
   「気狂いピエロ」とかはあんまり・・・
   ですけど。

新川 ゴダールで最後まで観れたのって
   「勝手にしやがれ」だけです。
   あと全部途中でギブアップっていう(笑)。
   「わけがわからん。なんなんだ、これは」
   って感じなんだけど・・・
   でも、タルコフスキーのわけのわからなさは
   好きなんですよ。

安田 うんうん。

新川 「これはずーっと観てられる」っていう。
   あれ、寝ちゃうっていう人、
   多いじゃないですか。
   「わけわかんない」って。

安田 ちょっとアンビエント的な・・・

新川 そうなんですよ。
   だから、なんでしょう?
   映画って、ほんと・・・
   好きな映画、嫌いな映画って
   説明がつかないと思うんですね。

安田 そうですね。

新川 トーンがあると思うんですよ、自分に合う。

安田 はいはい。

新川 話の面白さとか、誰が出てるとかじゃなくて。

安田 波長みたいなもの。

新川 そうそう。
   タルコフスキーの映画は・・・
   合うんですよ、なぜか。
   全然眠くもならない。
   最後まで見入ってしまう。

安田 そういえば、知り合いがやってる
   「映画の天才」ってイベントがあって・・・
   ちょっと変わった面白い映画の試写会が
   2~3ヶ月に1回あるんですけど。

新川 上映するのは、最近の映画?

安田 最近の映画。
   最新作ばっかりです。
   まぁ、メジャーなものというよりは、
   映画好きが好きそうな変わった映画を
   やってるんですけど。
   そこで観た「トム・アット・ザ・ファーム」
   っていう映画があって、
   これはすごい面白かったですね。

新川 どこの作品ですか?

安田 アメリカだったかな?
  (※実際にはカナダ/フランス制作の映画)
   グザヴィエ・ドランっていう、
   すごい若い監督なんです、20代前半の。
   誘拐事件があって、被害者が誘拐犯に
   だんだん同情していくっていう
   サスペンスなんですけど。
   その映画の風景がちょっと、
   タルコフスキーみたいな感じありましたね。

新川 それはほんとに最近の・・・

安田 そうですね。
   去年の終わりくらいの。

新川 アメリカ映画って、ここ10年くらい、
   そういうインディーズ・ムービーの
   元気がいいですよね?
   そんな風に思われません?

安田 そうですね、はいはい。

新川 監督も若手で、ローバジェット、
   公開も単館だったけど、
   口コミで大ヒットっていう。
   それで海外の映画祭にも呼ばれるみたいな。
   なんか、そういう流れができてて・・・
   で、メジャーのハリウッド・スターとかも
   興味持ち出して、一人二人だけなんだけど、
   キャスティングされたりとか。

安田 そうですね。
   ありますね、それは。

新川 なんか、あのへんの感じ、
   ぼくは、すごいいいなぁと思ってて。
   いっとき死んでたんですよね。
   昔、デヴィッド・リンチが
   嘆いてたんですけど・・・
   今はハリウッド製の
   ビッグバジェットの大作か、
   誰にも相手にされないような
   アート系のフィルムか、
   その二極化が進んじゃって、
   中間がない、と。

安田 うんうん。

新川 かつてリンチなんかが撮ってたのは、
   そのへんの「いい感じ」のライン
   っていうか(笑)、
   日本でいうと「ミニシアター」っていう、
   そういうムーブメントがありましたけど、
   そのフィールドがなくなってきたって・・・
   でも最近、盛り返してきたんですよね。

安田 あー、そうですねぇ。
   ・・・でも、音楽業界で言ったら、
   今の日本の音楽業界って、まさにその、
   分離してる、一番良くない状態だなって
   思いますね。

新川 そうなんですよね。
   音楽シーンにも、
   アメリカのインディーズ・ムービーみたいな
   フィールドが出てくればいいのにって
   思ってるんですけど。

安田 そうですね。
   まぁ、アメリカは音楽でも中間層に
   やっぱり元気あると思いますね。
   そんなメジャーのレコード会社とか
   レーベルじゃないけど、ちゃんと流通してて。
   いいなって思うものはいっぱいありますね。
   それがちゃんと耳に届くっていうのは、
   それなりに、何かしら宣伝がある
   ってことでしょうからねぇ。

新川 海外のインディーバンドのCD、
   タワーレコードで買えたりしますもんね。
   ちゃんと紹介されてる。
   彼らにしてみたら「え、日本で売ってんの?」
   みたいな感じだと思うんですけど(笑)。

安田 はいはい。

新川 その状況はいいなぁと。

(つづく)